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やまとには(國見の歌)
1974年 第4回交歓演奏会
指揮・千葉了道 ピアノ・多田コウ子

やまとには

大和(やまと)には、群山(むらやま)あれど、とりよろふ、天(あめ)の香具山(かぐやま)、登り立ち、国見(くにみ)をすれば、国原(くにはら)は、煙(けぶり)立ち立つ、海原(うなはら)は、鴎(かまめ)立ち立つ、うまし国ぞ、蜻蛉島(あきづしま)、大和の国は

  現代語訳

大和(やまと)にはたくさんの山があるが、特に良い天(あめ)の香具山(かぐやま)に登って、国を見渡せば、国の原には煙(けぶり)があちこちで立ち上っているし、海には、鴎(かまめ)が飛び交っている。本当に良い国だ、蜻蛉島(あきづしま)の大和の国は。

「国見」の歌

大和には群山あれど とりよろふ天の香具山登り立ち 国見をすれば国原は煙立ち 立つ 海原はかまめ立ち立つ うまし国そ あきづ島大和の国は

  現代語訳

「大和にはたくさんの山々があるが、特に頼もしい天の香具山に登り立って国見を すると、広い平野にはかまどの煙があちこちから立ち上がっている、広い水面には かもめが盛んに飛び立っている。本当によい国だね(あきづ島)この大和の国は」

<解説>

舒明天皇の歌です。

ある日、舒明天皇が香具山に登って大和平野を見下ろしながら国の情勢と民の暮らしぶりを望み見られました。(為政者が山に登り国の情勢と民の暮らしぶりを観察する事を「国見・くにみ」といいます。)すると、平原からは食事の支度をするかまどの煙があちらこちらに立ち上り、民の暮らしの豊かさが見て取れます。また、広々とした池の水面から多くの水鳥が飛び立つ様は平和そのものです。天皇はその様子をご覧になって、「ああ、美しく豊かな国だなあ、この大和の国は」と思わず声に出していわれました。

天皇が香具山の頂きから国見をしながら、その平和で豊かな風景を詠っています。

香具山は「天の」という文字が冠されるほど神聖な山です。(電子書籍本文の「天の香具山」にマウスカーソルを当てると語句が説明されます。)天皇が神聖な香具山の頂に立ち国見をすることは、単に国土と民の暮らしぶりを観察するだけでなく、そこから天の意思を感じ取るという大切な目的がありました。

ですから、この歌は、神聖な香具山の頂きに立つ天皇の口を通して語られた天の声でもあります。「美し国ぞ 蜻蛉島 大和の国は」この言葉は「この美しく豊かな国、大和の国に幸あれ」と天が大和の国を賛美し、祝福した言葉です。そこには、天の意思が「言霊・ことだま」となって宿っています。

言霊とは言葉に宿る霊力です。古来より、日本では、言葉には霊力が宿っており、言葉を口にすることで言葉に宿る霊力が働くと信じられてきました。「敷島の 大和の国は 言霊のさきわう国ぞ まさきくありこそ」万葉集に収められた柿本人麻呂の歌です。人麻呂は、日本は言霊が幸福をもたらす国であると高らかに歌い上げています。

「美し国ぞ 蜻蛉島 大和の国は」この言葉を何度も繰り返し声に出して暗誦してみてください。声に出し音として発してこそ、言葉に込められた天の意思が伝わってきます。古来より、言霊が私たち日本人の心(大和心)を育んできたのです。
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